1 東日本大震災が国産大豆の取引に及ぼした影響
 平成23年3月11日に発生した東日本・太平洋沖地震が国産大豆の取引を始め、生産、流通に及ぼした影響について述べる。
 
  1-1 大豆入札取引
   平成22年産大豆入札取引は、平成22年12月15日に第1回から始まり、平成23年3月2日に第5回
取引を終え、3月16日(水)に予定された第6回取引に係る上場情報を3月16日(金)午前中に買い手に通知した直後の午後2時48分に地震が発生した。協会の所在する東京都港区でも強い揺れが
長時間続くのを感じ、ビルの館内放送の避難指示に従って業務を中断して待避した。
 その後、東北地方、関東地方に甚大な地震被害がもたらされたことが報道された。 週明けの3月
14日(月)に売り手に被災地域の状況を確認したところ、保管倉庫の被災、道路の不通等により、
大豆の保管状況の確認や出庫が困難な状況が東北各県及び茨城県、栃木県に及んでいることが判明した。また、東北、北関東において停電が続いている状況、通信が混乱している状況も報道
されており、3月16日に予定されていた第6回取引については、開催は無理と判断し、その旨登録者に通知することとした。
 通知は、ファックスによって行ったが、青森県、岩手県、宮城県、茨城県の買い手については、
ファックスが到達しないケースが多かったが、3月15日には停電の解消から一部を除いて連絡が
完了した。
 宮城県気仙沼市の買い手2者については、その後も連絡が取れなかったが、3月末までには連絡をとることができた。被災地所在の買い手においては、施設、商品の被災があったものの、幸い人的被害の情報はなかった。
 4月入札取引については、3月18日に予定を登録者に通知した。
   第6回 4月 13日(水)
   第7回 4月 27日(水)
 なお、4月7日深夜に宮城県沖を震源とする大きな余震があり、4月8日(金)に予定していた買い手への上場情報の配付については、東北、関東に所在する倉所の保管大豆への影響を把握が必要であり、売り手において上場内容の再確認を行った上で4月11日(月)に買い手に通知した。
  中国食品の問題がクローズアップされた2008年(平成20年)には、消費者の国産志向の高まりがみられた。
   
  1-2 平成22年産大豆に係る被害状況
   平成22年産大豆は、売り手(全農)からの報告によれば、地震発生当時、生産者から集荷された
大豆が倉庫に保管されている状況であったが、沿岸の津波被害が著しかった岩手県、宮城県、
福島県の内、沿岸部での大豆生産が少ない岩手県及び沿岸部の産地の大豆が既に内陸部の倉庫に移されていた福島県では、津波による被害は免れたが、宮城県では津波による浸水があった
地域に所在する倉庫が被災し、保管中の大豆の流失、海水による浸せき、荷崩れによる破袋等の被害が発生した。[1-1
   
  1-3 大豆価格形成への影響
   平成22年産大豆の入札取引の状況を見ると、震災による取引中止後、再開した4月以降の取引では入札が増加し、取引が活発化する状況が見られた。
 各月の平均落札価格は、震災を挟んで上昇する動きが見られたが、産地品種銘柄毎に異なった動きがあった。
   
  1-4 平成23年産大豆生産への影響
   東北、関東における大豆生産は、主に米の生産調整に関連する水田転作作物として作付けられている。
 震災が発生した3月は、既に平成23年春の作付計画が決められていた時期であった。
 また、民主党政権発足に伴い導入された戸別所得補償制度は、平成22年においては主に米作を対象にしたものであったが、平成23年からは、大豆についても本格的に対象とする等政策の仕組みの変更も重なった。
 地震は、農業生産に関して、津波の襲来、地盤沈下による農地の浸水、海水の流入、潅漑施設や集出荷施設の損壊等の甚大な被害をもたらした。
 また、3月15日に発生した福島第1原発の原子炉の水素爆発による放射性物質の放出、拡散は、周辺住民に避難を余儀なくさせたばかりでなく、広範囲に及ぶ農地の土壌汚染をもたらした。この
ような原発事故の影響は、営農の中止、生産物の出荷・販売の禁止や自粛、さらに放射性物質に
対する消費者の不安を背景にした買い控え等は、生産者にとっては単に天災害としては理解でき
ない甚大な損害と苦痛をもたらしている。

 (平成23年産大豆作付面積)
 東北各県において、大豆は、水田転作作物として生産されており、農水省作物統計により平成23年産水田作大豆作付面積を前年産と比較してみると、各県毎に状況が異なり、宮城県、福島県の減少が大きく、秋田県、山形県でも減少したが、青森県、岩手県では増加し、東北全体では
−2,200ヘクタール、−6.3%の減少となった。[1-2] [1-3
 津波被害は、岩手県、宮城県、福島県で著しかった。大豆生産への影響を把握するため、前年の平成22年産大豆の各県作付面積に基づいて、被災市町村の大豆作付面積の割合を見た。市町村の管轄区域が大きく、津波被害と無関係の地域を含む市町村もあり、正確な状況を示すものでは
ないが、岩手県では7%、宮城県、福島県では3割程度となる。
 福島県においては、津波被害に加えて原発事故による避難を余儀なくされた地域がある。津波による被災と原発事故による避難地域は、かなり重複するが、これら被災市町村の平成22年産大豆
作付面積が県作付面積に占める割合は、3割強となる。

 (平成23年産大豆供給量)
 東北各県及び震災の影響を受けた関東の主産県である茨城県、栃木県の平成23年産大豆収穫量をみると、東北では、宮城県、山形県で前年産より1,000トン以上減少、福島県で100トン強の減少となったが、その他の県では増加し、東北全体では、−300トンの減少となった。山形県の減少は、震災による影響ではないので、大豆生産に対する震災による影響は、結果としてそれほど大きい
ものではなかった。[1-4] [1-5
 関東では、茨城県は増加、栃木県は減少したが、両県を合わせるとほぼ前年並みとなった。
1-6] 
 農産物検査法に基づく農産物検査数量は、生産された大豆のうち、商品として販売される数量を示すものと理解できる。農水省が公表した平成24年2月末現在の検査数量のデータにより、東北
各県と茨城県、栃木県の大豆供給量を前年産と比較してみると、宮城県で減少するものの、秋田県、岩手県で増加、その他の県でも前年並みの供給量となり、東北全体では1,500トン以上の増加、茨城県で増加、栃木県で減少して両県を合わせると前年並みの供給量が見込まれる。産地品種銘
柄別には、栃木タチナガハ、宮城タンレイ、福島タチナガハが減少したが、他の銘柄は、増加ないし前年並みが見込まれる。[1-7] [1-8